5、そして恋の行方は。

 そしてやってきました昼休み。決戦の時は訪れた。
 暢気に廊下を歩いていたヤツを、無言で腕を引っ張り拉致。そして連れて来たは体育館裏。
 まあ本当のところ、恋する乙女は放課後まで待てなかった。それが事実で御座います。
「頼もう!!!!」
「・・・」
 向かい合ったあたしは、手をグーにしてそう叫んだ。何故かというと、叫びたかったからだ。それだけだ。この人気のない場所で、やることと言ったらイジメか喧嘩か愛の告白しかないだろ! だから、つまりあたしは・・・勘違いしていたようである。
 うん。どう考えても入り方が愛の告白ではない。他にも立派な候補があるわけですから、この流れで行くとイジメか喧嘩の方が優勢なことは間違いない。叫んでから気付きました。はい。
 案の定、ヤツは呆れた顔を五秒ほど維持してから、その顔のままぽつりと呟く。
「・・・何を? 教科書忘れた? それとも宿題?」
「ちがーう!」
 ありもしないちゃぶ台をひっくり返すような動作をして、あたしは叫ぶ。興奮のため、いつもよりもオーバーにひっくり返しています。大サービス。持ってけ泥棒。
 その瞬間、がさがさがさっと、持った紙袋が音を立てた。いいいい、いかん。落ち着けあたし。これはヤツへのプレゼントなのだから。もっと大事に扱わないと。恋する乙女なんだから。落ち着け。乙女。
「・・・」
 その音に気付き、そしてその紙袋の存在に気付いたらしい。ヤツはその瞬間、僅かに顔を顰めた。あれ? あれ何だろう。・・・まさか。みたいな顔をしている。お前、よくよく失礼なヤツだな。人から貰い物をするときに眉間に皺を寄せるとは。
「本題に入るぞ! 今日、お前をこの場に呼びだしたのは! だ!!」
 あたしは気を取り直して正面を向くと、人差し指でヤツを指さし、叫んだ。ヤツは「・・・はぁ・・・」というため息なのか返事なのか分からない反応をしている。もう流れ的に、間違いなくイジメか喧嘩方向へ爆進。ドンドン愛の告白からは離れて言っている気がするが、ここまで来たら後には引けないあたし。そのまま突っ走ることにした。気合い入れろや! 男だろうが! そう思いながら、指をさしたまま再び叫ぶ。
「今日が何月何日で何曜日の何の日か分かってるな!?」
「・・・」
 今度は「はぁ」すらない。何で黙る!? 返事位したらどうだ!!
「おい! 答えろ! 分かってるな!?」
 興奮最高潮のあたしは、贈り物であるはずの紙袋をグシャグシャにして叫んだ。あれ? あたしここに何しに来たんだっけ? という勢いである。とうとう自分を見失った模様。どう考えても最早、告白をしに来たようには見えない。自分でも。あっちゃー。
 彼はどう思っているのか、もしかしたらそんなことはどうでも良いのか、取り敢えず物凄く申し訳ないような迷惑なような困ったような顔をしてボソッと言葉を吐いた。
「・・・あの、さぁ・・・先に言わせて貰いたいんだけど・・・実は俺・・・」
「言うなー!」
 シャーラップ!!! その先は言うな! そう叫んでから、あたしは彼の目の前。三十センチ程までズカズカ近付いた。そして目を丸くした彼を睨み付けるように見上げ、押しつけるように紙袋を渡しながら言う。
「男は黙って受け取れ! 武士は食わねど高楊枝!!」
 そして紙袋から手を離し、決まった・・・。と、思った。
 本当は「据え膳食わぬは男の恥!」と言おうとしたのだが、どこをどう間違ったのか高楊枝になってしまった。まあ、やせ我慢でもしろという意味ではあっているかも知れない。
 正直、どっちでも、どうでも良いことである。どっちでも微妙にずれてるが故。そして、既におかしな事になっているが故。
 現に、彼にはそれに突っ込む余裕も無い。それ所ではないらしい。
「うわー・・・」
 こんなに沢山。と、彼は情けない声で呟く。そう。彼に渡した紙袋の大きさは「大」。そこに、ギュウギュウ隙間無いほど仕込んできた思いの丈。上はキッチリ、テープで止めてきた。全て今朝、コンビニで仕入れてきた物である。
 よって、それは袋だというのに箱のようになっている。それの底を両手で持ち上げている彼。端から見たら、バレンタインデーの贈り物には見えない。あたしでも見えない。
 我に返れば何をやっているのか、あたし達二人。端から見たら、相当可笑しかっただろう。当事者であるはずのあたしだって可笑しくて仕方なかったのだから、それは間違いのない事実と思われる。最早、異常と言っても良いかも知れない。
「・・・あの・・・なぁ。あのさ」
 その異常の中、本当に泣きそうな顔をして彼は言った。珍しく弱気な声。そんなところも可愛いなんて思ってしまうあたしは、恋する乙女という名の馬鹿である。ええ、馬鹿で結構。こんな幸福感を感じていられるなら、望んで馬鹿になるぞっ! ってなもんである。
「何よ」
 しかし、あたしは意地を張った。傷付いたんだ。昨日。その仕返しの意味も含めて、あたしは意地悪く聞き返す。これくらい良いでしょ? と、自分を正当化しながら。
 しかし彼は、どこまでも素直に情けない表情をしている。あたしから目を逸らし、地面に向かってボソボソと呟いた。
「・・・その・・・大変、申し上げにくいことなのですが・・・」
「・・・う・・・」
 可愛い・・・じゃなくて。いや、可愛いんだけど・・・。
 ・・・ずるい。そんな声。と思う。・・・可哀想になってきた。
 大好きな彼。こんな声を聞いて、楽しいわけが無いじゃない。恋する乙女は、本当に弱い。でもそれって、とっても素敵なことなのだ。きっと。
「・・・その先を言う前に」
 しょうがないなぁ。そう思い、あたしはあっけなく助け船を出すことにした。
 あたしは紙袋を彼に押しつけて、言った。「中見てみて」と。
「・・・」
 彼は、情けない顔のままテープを切り始める。どうやら、貰うこと自体は嫌ではなかった模様。
 それに今更、ホッとした。そういうことも忘れていたよ。このバレンタインは。
 彼が作業をしている間、あたしはホッとため息を付く。まあまあ、それについては良かった、と。
「・・・・・・あれ?」
 一方、袋を覗き込んだ彼は、結構長い沈黙のあとこう言った。そして、中をがさごそとひっくり返したり引っぱり出したりした後、こうも言う。「何これ」と。
「・・・バレンタインデーのプレゼントに決まってんじゃん」
 改めて言うと照れ臭い。唇を尖らせて、あたしはボソボソと呟く。それはつまり、つまり告白とも同じなわけでさ。・・・照れ臭い。
 でも彼は、まだそれに気付かない。怪訝そうな顔をして「バレンタインデー?」と聞き返す。
「だってこれ・・・・・・」
 そこまで言いかけて、彼はやっと驚いたように目を丸くした。そしてあたしと紙袋の中身を見てから、申し訳なさそうに言ったのだ。
「いつ、ばれたの?」と。
 ・・・やっぱりね。


 今朝だよ。今朝、気付いたの。
 気付いたというか、もしかしたらと思ったの。心の中で返事をしながら、あたしは思い出す。今朝のこと。テレビに出ていた男は、きっと「あたし」に向かって言ったのだ。
「バレンタインデー? 興味無いですね。大体、あれ、お菓子業界が作ったもんでしょ? まぁー。楽しいのは良いと思うけど・・・」
 きっと神様が「あの子に教えて上げなさい」って彼に言ってくれたのだ。
「俺、甘い物苦手なんですよ。貰っても喜んで食えないから申し訳なくて」


 考えてみたら、彼がチョコを食べているのを目撃していなかったあたし。遠慮ないほどジロジロ見ていたはずなのに、記憶の中には一こまもなかったその光景。よって、そういうことかもしれないという結論に達した次第。
 今朝、あたしが紙袋(大)に詰め込んだのは、スナック菓子の数々。とは言っても、四袋も詰めればいっぱいになるから大して金も掛からなかったけどね。ある意味お前は、恋する乙女(の財布)に優しい男だ。
 ええ。勿論、コンビニのお姉さんは、それはそれはビックリしていました。
 バレンタインデーに。
 朝から。
 女子高生が。
 スナック菓子四袋。 
 この子、一体何をするつもりなのかしら。と、いう顔をされたよ。気にしなかったけどね。



「それなら食べられるでしょ?」
 ふふふん。と、あたしは鼻高々に言った。それだったら友達と食べてるの、見たことあるんだからね。恋する乙女を侮るな。一時間勉強して英単語暗記するよりも、そう言うことは一度見たら忘れない。これだけ自信があるのだから、「食べていない」事実にも自信があったのは言うまでもない。
「うん。食える」
 素直に頷いたヤツは、そう言ってから首を傾げた。
「でもさぁ」
 そして、それをまじまじ見てから、言った。
「これ、結局どういう意味なの? 何? 義理? それとも菓子くれただけ?」
「・・・」
 それを聞いて、あたしはポカン。な、何てこったい。である。
 ば、馬鹿!! この馬鹿!! と、危うく叫びそうになるのを、辛うじて堪える。だってバレンタインですから。何たってバレンタインデーですからー!! あたしは恋する乙女だし!! それが、あんたは分からないのか! バレンタインデーにわざわざあんたの好きな物を選んで贈る、この意味が! あたしこんなに、恋する乙女なのにーーーーっ!!
 それは、表情に表れていたらしい。彼は、ちょっと恐れたように半歩下がって、言い訳のように言った。
「いや・・・だってこれ・・・全然バレンタインっぽくはないし・・・」
「・・・う・・・」
 そ、そうね。まあ・・・その・・・スナック菓子ではあるわね。・・・バレンタインぽくは・・・ないよね。
 うむ。と、思わず納得してしまったあたしに、聞こえてくる彼の言い訳その二。
「・・・変に誤解したら、俺悲しいじゃん?」
「・・・うん?」
 その誤解は、どういう意味での誤解なのか。その胸ぐらを掴んで振り回し、聞いてみたいものである。
 しかし、同時に理解したあたし。そうか。そうだったのか。迂闊だった。バレンタインてやつは、そうか。言葉を言わずとも、そのチョコのグレードである程度までは相手が理解してくれると言うお役立ちアイテム使用可な便利な日だったのだ。と。
 その便利な日を、相手の都合によって無効にされてしまった恋するあたし。ああ、可哀想。そうだ。元はと言えば、あんたのせいでー!!!
 しかし負けるかってんだ! この展開は想定外だが、この事態にも対応出来る奧の奥の手を、あたしは仕込んでいた。実は。
 そう。あたしは気付いていた。この色気の無さ。バレンタインらしくない、この贈呈物の欠点。これで気持ちが伝わるのか? と。
 思ったのだ。スナック菓子を四袋抱えて、ふと、我に返って。・・・あたしは一体、何をやっているのか。と。お前は恋する乙女じゃなかったのか!? と。それをまあ・・・コンソメパンチだの、サラダ味だの。それで良いのか? と。
 いい訳あるかーーー! ・・・というわけで、最後に一つ入れた物。
「底の方に・・・」
 しかし、これを改めて言うのも照れ臭いじゃないか。恥ずかしいじゃないか。つまりこれって、好意の表れなんだから。
 あたしは多分顔真っ赤。だから、彼から顔を逸らしてふてくされたように言う。
「チロルが一個、入ってるわよ! それ位、我慢して食べなさいよ! バレンタインなんだから!」
「・・・チロル?」
 彼はそう言って、再び袋をごそごそ。そして何度もスナック菓子をひっくり返し、二袋ほど引っぱり出して、やっと見付けた模様。「あ、ホントだ」と、感心したように言った。
 そしてそれを取り出して、まじまじと見つめている。あたしも膨れたまま、その手元を見る。チロル・・・ああ、チロルだよなぁ・・・ちっこいなぁ・・・。と思いながら。
 飾り気も何にもない、「素チロル」。その・・・なんとまあ、こう言っちゃ何だが、この良き日(?)に相応しくなく・・・見窄らしいというか・・・。ああぁぁぁ・・・あれれれ・・・。
 それを見ていたら、体から力が抜けた。考えてみればチロル一個。これで本当に気持ちを分かって貰えるかどうか、不明である。
 いや、多分、今までの彼の思考回路を考えるに無理だろう。全然駄目だろう。義理にしか見えていないに違いない。ってことは、あああぁぁ。駄目じゃん。結局、不完全燃焼じゃないの。
 朝の燃えまくっていた自分が恥ずかしくなってきた。まぁ・・・彼が辛党って分かっただけでも良いけどさぁー。今回のバレンタインは、これで終わったな。と、思わずため息をもらすあたし。
 その・・・あたしの顔を覗き込んで彼は言った。
「じゃ、何? つまりさ」
「? 何?」
 何? 何なの? そう思うほど、彼の笑顔は今までの中で一番と言っても過言でないほどの笑顔だった。どうしてここで、そういう笑顔をするのか分からない。
 そう思いながらちょっと混乱していたあたしに向かって、彼は笑顔のまま、こんな事を言う。
「これって、俺のこと好きって解釈して良いわけ?」
 何ですと?
「・・・!!! ば・・・っ」
 がーーーーーん! 何!? その不意打ち!!!
 ぶぁっっかやろーーーーー!! と、いつものノリで叫びたかった。あんた何てこと言うのよ!! 臆面もなく! 照れもせずーーー!!! ・・・と叫べる物なら、叫びたかった。
 しかし驚きと羞恥心のあまり、パクパクパク・・・と真っ赤な顔をした金魚なあたし。それしか出来なかったあたし。そのあたしを見て、彼は更に笑う。
「な。どうなの? そうなの?」
 その笑顔に。・・・ぐらっ。・・・め、眩暈が・・・。
「な・・・ど・・・そう・・・いや・・・あの・・・」
 そんなことをあっさり言えるくらいならバレンタインデーまで待つか! わざわざスナック菓子なんぞ、買うかー!! ・・・これが、本音。
 しかし、そんなことを言えれば御立派。実際には何も出来ないあたし。真っ赤な顔を俯いて隠したあたし。上から振ってくる笑い声に、不安と緊張の雨嵐である。
 そのあたしの頭をぽんぽん、と叩いて彼は言った。
「何? いきなり、しおらしくなっちゃって」
「も・・・もーー! 知らない!」
 悲しくも何ともないのだが、泣きそうになってあたしは歩き出した。恥ずかしい。そして、彼の声が愛おしくて胸が痛くなった。きゅーっと。うーっ。痛い・・・。
「あ。ま、待てって」
 そのあたしの手を握り、彼が慌てたように引っ張る。
「!?」
 え? と思う。だって、手を繋いだのなんて初めてだったから。
 あたしはビックリして、羞恥心なんか見事に吹っ飛んだ。伝わってきた手の感触。彼の手は、大きくて、ゴツゴツしてて。
 そして冷たかった。・・・それが寒さではなく緊張だったと知るのは、放課後に一緒に帰る時に知る話。
 目を丸くして振り返ると、彼は笑顔で言う。
「からかいすぎた? ・・・ごめん」
 そう言って、彼はちょっとだけ力を込めてあたしの手を握る。あたしの手は、彼の手よりもずっと冷たくなっていて。だから暖かく感じて。
 離したく、なくなって。あたしもその手を握り返していた。無意識のうちに。
「・・・ありがと」
 彼は、笑ってそう言った。その表情は、文句無しに嬉しそう。自惚れでも何でもない。だって、そんなこと分かるほど冷静じゃなかったんだから。
 そして、それは彼の次の言葉で確信に変わる。
「嬉しい」
「・・・う・・・うれ・・・?」
 ほ、ホント? ホントにホント?
 彼の細工のない直球に、あたしは急に戸惑った。そんな事を言って貰えるとは思っていなかったから。だから・・・そう、すぐには信じられなくて。
 しかし彼の直球は、どこまでも直球だった。そこまで打ちやすくなくても良いのよー! と言うほどに、どこまでもどこまでも直球だった。
「俺も好き」
「も・・・? ・・・・・・・・・もーー!?」
 ずばーーーーん! と、見事真ん中のミットに収まった彼の直球。見送り三振のあたし。スリーアウト! でございます。ええ。審判に文句の付けようもありませんよ。ええ。大人しくバッターボックスを出ますよ、あたしゃ。・・・いや、現実逃避をしている場合ではない。俺も? 好き?
「も」? 「も」って・・・「も」ってなんだ。ああああ、あ、あた、ああああ、あた、あたしは、まだ、ちゃんと、言ってな・・・す・・・? ・・・好きー!?
「え・・・えええええーーー!?」
 もう言葉にならない。ぱく・・・ぱくぱくぱく。顔の赤い、瀕死の金魚なあたし。ほ、本当にもう、し、死にそう・・・。さ、酸欠で・・・げふげふ。
「・・・おい? 何、真っ赤になってるの? 大丈夫?」
 そのあたしの異常に、さすがに気付いたか彼は顔を覗き込んできた。ひゃー!! お待ちになってーーー!! 今この状況でそんな近付いたら駄目で、ですってーー!
「う・・・うううううん! うん!!!」
 それ以上近付いたら、ときめき過ぎて死ぬ! という体の警告に反応し、安全対策の為、慌ててこくこくこく!! 頷いたあたし。「だだだ、大丈夫!!! だい、じょう、ぶー!!」と叫びながら、何度も壊れたおもちゃみたいに頷いた。
 いや、本当は全然大丈夫じゃないですよ! 本当は全然駄目ですよ! だって、あたし今、息だけじゃなく心臓も止まりましたって! 死にかけたんだって! 今現在も死にかけ継続中ですってー! ・・・くくく、苦しい・・・酸素・・・酸素ー!!。
 ぜぇぜぇと、動悸の激しい危ない状態のあたし。しかし「大丈夫」にあっさり安心したのか、あたしから目を逸らし、時計を見ながら彼は言った。
「・・・っと。もう授業が始まるな・・・」
 授業? それどころじゃない。それどころじゃ・・・うわぁー! 気が付けば、あたしってば、まだ手、手を繋いだままだー!! ばんざーい!!!
 気が付いて肩が強張った瞬間、手に力が入る。その感触に反応したのか、彼は「何?」と、またあたしの顔をまた覗き込んだ。
「なななななななんでも、ななななななななないいいいです」
 ぶんぶんぶんぶん。アナウンサーもビックリの早口で、あたしは答えた。これがワザと出来たら人間国宝!
「・・・そう? ま、いっか。取り敢えず戻ろうぜ。授業始まっちまうよ」
 彼はそんなあたしを見て、可笑しそうに笑ってから手を引いた。わーい! うわーい! 手を繋いだまんまだー! と、浮かれるあたし。その手を離されないように、彼に従って歩き始めた。うわーい。うわーい。近いよー。大きいよー。彼の背中ー。
「あ、これ、ありがと」
 それを見上げていたあたしに、彼は思い付いたようにそう言って振り返り、顔の横まで持ち上げたのは色気のない紙袋。あらららら・・・。と、浮かれきっていただけに、どうしようもなく情けなくなった。
 ・・・けど、同時に彼の笑顔に癒された。喜んでくれたのなら、嬉しい気持ちの方が断然大きい。ううん、大きくなる。彼が、大きくしてくれる。
「・・・・・・うん・・・」
 辛うじて上手く頷いたものの・・・えへへへへ。堪えきれなくて、彼には隠れてあたしは笑った。もう、ゆるゆるの頬。見せられないくらいニヤけてる。
「今日さ」
 そんな歌い出したくもなったあたしに、彼はもっと幸せをくれた。
「一緒に、帰ろ」
「・・・え?」
 一緒に? 帰ろう?
 ・・・って、言ったの? 今。
 一緒に? ・・・あれ? それ、約束? 約束? してくれるの?
「・・・な?」
 良いの? と思い、ビックリして目を丸くしたまま見上げたあたしに、彼はちょっと照れ臭そうに笑う。・・・から。
「・・・・・・う・・・うん・・・」
 ・・・だって、そんな風に笑ってくれて凄く嬉しかったから。
「うん。帰るー・・・」
 一緒に帰るー・・・。手を繋いで帰るー。って、気が付いたら泣きそうになりながらニヤけつつ、何度も呟いてたあたし。・・・後々考えると、赤面もんだ。
「分かった分かった」
 でも、この時はそんなこと思いもしない。上から振ってくる笑い声に、優しい言葉に、嬉しいやら幸せやら。
 万歳バレンタイン!!! あたしは心の中で思いっ切り叫んだ。




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